「ねぇランディ、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「あー、なんだ?」
「こういうメールはあて先間違えないでよね」
エニグマの画面を突き出してお嬢は嘆息する。
俺は画面に目を凝らした。
『俺もお前に今すぐ会いたい。明日、楽しみにしてるから。愛してる』
俺は背中に嫌な汗を感じた。
辛うじて表情はいつも通り平静を装っていたと思うが、エニグマを持つ手がぶるぶる震え、そのままエニグマを叩き割りそうだった。
恥ずかしいなんてもんじゃない。これは俺がロイドに送ったメールだ。
返事が来なかったので寝たのだろうと思っていたのだが、まさかお嬢に送っていたなんて。
返信の時に一つ手前に来ていたお嬢のメールに間違えて返信してしまったのだろう。
俺としたことが何と言う凡ミスをしたんだろう。
幸いな事にロイドの名前が無い事が救いだったが、これで愛してるロイドなんて入れていたらお嬢からのツッコミは免れなかっただろう。
「ま、今度から気をつけるわ」
俺が軽くそう言うと、お嬢はまだいぶかしげな顔で俺を見る。
「それにしても、誰にでもそういう事言ってるの?」
「まあ女の子口説くにはこのくらい普通だろ」
俺はお嬢の顔に接近して、顎を取る。
「どうだ、お嬢も試してみるか?イイ思いさせてやるぜ」
「馬鹿言わないで」
あっさり手を払われて、俺はからから笑う。
お嬢の顔は心なしか赤い。そうかそうか、お兄さんがカッコ良くて照れちゃったか。
俺はお嬢の頭をなでると、からかって悪かったと言う。
「まったく、少しはロイドの真面目さを見習って欲しいわ」
お嬢はそう言うと立ち上がって端末へ行こうとする。
すると、背後でいつかのようにドサっと音がした。
蒼白な面持ちで俺達のことを見ているロイド。
まずい。絶対まずい。これはフラグが立った。
「ロイド、2階に行こう。お前荷物取り落とすなんて、ゆっくりした方が良い」
俺は慌てて駆け寄り、ロイドの買ってきた食品類をお嬢に預け、2階にロイドを押しやった。
ロイドの部屋の戸を閉めると同時にロイドが俺に抱きついてきた。
キー坊じゃあるまいしその子供じみた抱きつき方に笑いそうになる。
が、ここで笑ったら全て水の泡だ。またこの間みたいになる。
「な、な、なんで・・・エリィと、あんな・・・」
「あれは冗談だ。お前に送ったと思ってたメール、お嬢に届いててな。それで詰め寄られた」
「それにしても冗談に見えないよ・・・」
またおれの事不安にさせるの?と素直に胸のうちを吐露するロイドの頭をくしゃくしゃにして溜め息をついた。
「あのな、お前以外とはキスもしなけりゃエッチだってしねえし、したいとも思わねえから」
そう・・・?とまだ不安げに瞳を揺らしながら俺を見るロイドに軽くキスをする。
「今から証明してやっても良いさ、お前がその気ならな」
俺がそういう行為を意図してロイドの下腹部を撫でると、ロイドは慌ててその手を押さえる。
どうせ昨日の事を思い出してるんだろう。
ロイドは歯を食いしばるようにして、何とか行為の記憶や予兆を押さえ込んでいるみたいだった。
感じやすいんだよな、心も、体も。
「・・・っ、違、そういう事で証明しようとしないでくれ」
「難しいこと言うなー。目に見えないもんを形にしようとしたら最終的にこうなるんじゃねーの?」
ほれほれ、と言いながら俺が背筋をつうっと撫で上げると、背をしならせて俺をぎゅうっと抱く。
反応が良すぎて楽しくて、ついあちこち触ると、それだけで少し息を上げるロイドが俺をまじまじと見ていた。
「ランディ、おれの体好き?」
そんな手に乗るか。
「お前が好きだ」
ここはこれで正解だろうと思った。
「そんな定型文みたいな回答、納得いかない」
おいー。お前どうしたいんだよ。
ああ言えばこう言うし、難しい年頃か?遅めの思春期か?それとも真っ盛りか?
俺はロイドの頭を抱えて、どうしたもんかと考えるが、考えたところで俺の解答はただロイドが好きという事に尽きる。
それを証明しろなんて数学問題じゃあるまいし簡単に出来やしない。
要はロイドが信じるかどうかという問題だ。
まあ俺の行動にも問題があってこうなってるわけなので、悪いとは思うが。
ロイドの髪を撫でながらしばらく沈黙していると、腕の中の体が少し震えていた。
え、もしかして泣いてる?やばくねえ?
どうにかしないと。
「ロイド・・・、あのな、俺達のことって秘密だろ?
だからそのために必要なら嘘をついたり、あんな事したりもする。
俺も、まあデリカシーが無かったのは認めるけど───」
腕の中の体はますます震えて、俺がぎょっとしていると堪え切れなくなったように声を上げた。
「ぷ、く、あはははは!・・・くく、ごめ・・・はは」
俺が何が起こったのかわからずポカンとしていると、ロイドの手が俺の唇をつまんだ。
「ホント、ランディにはこのくらいやらなきゃ効かないんだな」
いつにないしたり顔で、ロイドは俺を見る。
目の端には笑いすぎて涙が溜まっていた。
どうやら俺はロイドの手に乗ってしまったらしい。
開けない口の代わりに、頭を掻く。困った。こんな悪戯をするような奴に仕込んだ覚えは無いんだが。
俺が考え込んでいた時間、俺が言い訳をした時間、こいつは心の底でほくそえんでいたわけだ。
「少しは肝が冷えただろ」
ロイドは俺の唇を離して、そう言う。
こいつめ。
俺はロイドの額にでこピンを食らわす。ロイドはきょとんとして、それから俺のでこピンの理由を聞いてきた。
「演技が上手過ぎだ。何て言えば良いのかすげー考えた」
「そもそもはランディが悪いんだからな、いくら秘密にしてるからってデリカシーの無い行動は慎んでくれ」
まあ焼きもちの一種と言う事なのだろう。
そう思えば可愛いものだが。
「分かりました・・・」
反省の色を濃く出すために自然、敬語になる。
可愛い恋人のお願いだ。聞かぬわけにもいくまい。
俺は自分のデリカシーがそんなに無かっただろうか、ロイドはこんなに不安になりやすかっただろうか、と考えながら再度ロイドをぎゅっと抱きしめる。
少し頬を朱に染めてロイドは嬉しそうに俺の首に腕を回す。
「でもやっぱりランディは優しいな・・・」
「デリカシーは無いけどな」
「嫌味?」
「ちょっとくらい言わせろ」
「ふふ、ごめん。・・・大丈夫、今はちゃんと信じてる。ランディがおれの事好きって」
「そうか」
「別にこんな事しなくてもランディの気持ちはもう分かってる。だけどさ、嫉妬してるって言わないとランディは気づかないだろ」
「うぐ、まあ・・・否定はしねえけど」
「ランディがおれに甘えてる部分がそうやってあるなら、おれもこうやって甘えさせてもらおうかなって、まあそんな風に思ったんだ」
「対等に?」
「そう、対等に」
ふふ、と目を細める。ロイドは綺麗に唇の端を上向かせて笑った。
しかし笑ってしまう。
対等な関係なんて、とっくの昔に崩れているのに。
お前を好きになった時からもう、対等なんかじゃない。
ずっと俺の方が───。
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ロイドさん的にはさほど嫉妬してるって程でもないけど
ランディに言って困らせて反応見るという。
実際このランディはデリカシーが無いのでこのくらいされてもまあ。と言う感じ。
ランディが遊ばれてる図は書いてて結構楽しいものがあります。
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